新聞やテレビ等では、新型コロナウイルス感染症の話題が連日報道されています。世界での感染者拡大が依然として高水準で推移しており、感染終期が見通せないなか世界経済も予断を許さない状況であり、今後のシナリオによっては1,300兆円規模の損失が出るといった予測も出ています。回復するには相当な時間がかかると思いますが、全世界の人たちが力を合わせて克服していかなくてはならないと思います。
平成23年3月に発生した東日本大震災と原発事故は、ふくしま県民に大きな衝撃を与えました。私たち森林組合も避難区域では作業そのものが停止となり、それまで主力だったシイタケ原木や山菜・キノコが出荷停止、木材流通市場では風評被害で価格が下がるなど業務が麻痺状態となりました。
私は、これからの福島の林業を守るには、何をすればよいのか思い悩みました。そして、先に被害のあったチェルノブイリ原発のその後の状況を自分の目で直接見たいと思うようになりました。そうした折、同年10月末に福島大学の清水修二副学長を団長にチェルノブイリ原発事故調査団が結成されると伺い、無理を言って参加させていただきました。
チェルノブイリ原発は、25年経過しても30km以内の立ち入りが厳しく制限されており、市内には「祈りの公園」が整備され、消滅した村の名前が書かれた板やHirosima、Fukusimaと書かれたモニュメントが設置されていました。原発4号炉は老朽化が進み、新たに巨大なドームで覆うプロジェクトが始動していましたが、廃炉による完全な処理には100年かかるとのことでした。
また、原発から10km圏内にある通称「赤い森」を見ることができました。高い放射能に汚染され、枯死した松が赤く見えたので「赤い森」と呼ばれたと言われています。枯死した森林は伐採され、土の中に埋められ、跡地には新たに松が植林されていました。
ベラルーシとウクライナ両国の関係者から話を聞くことができましたが、両国では、住宅や農地、森林の表土を取り除く除染は行っていないということでした。除染によって生じる膨大な汚染土の処理ができないことなどが理由で、「放射線は50年のうちに自然に下がってくる。それまで共存することだ。」との説明がありました。被災後25年経過しても森林に入れず木材が一切使えないという現実を目の当たりにし、私は何とも言えない気持ちになりました。福島の森林はその多くが民有地です。植林から育成林に長い年月をかけ、先祖代々引き継がれた大事な山林です。このまま放置する訳にはいかないという気持ちがますます高まり、帰国後私はさまざまな機会をとらえ、国・県等関係機関に対して森林の重要性とその回復の必要性について訴えてまいりました。
あれから9年が経過し、福島県では表土を取り除く除染が公園や学校等公共用地にはじまり、住宅や道水路、ため池などで順次進められ、放射線の線量も低下してきています。一方森林関係では、間伐等による山の手入れと放射性物質対策を同時に行う「ふくしま森林再生事業」が平成25年に創設され、各自治体で取り組みが行われてきましたが、計画面積に対する実施率は4%程度にとどまっており、いまだ道半ばであります。
森林は生態系の源であり、国土保全や水源の涵養、地球温暖化防止など多面的な機能を有しております。私たちはこれを良好に維持し、子や孫の未来へつないでいく責務があり、そのためにはさらなる取り組みが必要です。当組合は今後も関係者の皆様と連携・協力し「森林は地球を守る宝物」をテーマに森を守る活動を進めてまいります。
2020/7/1